や》しまれるばかりの滑《なめ》らかさが、親《おや》の目《め》にさえ迫《せま》らずにはいなかった。
 嫌《きら》いな客《きゃく》が百|人《にん》あっても、一人《ひとり》は好《す》きがあろうかと、訊《き》いて見《み》たいは、娘《むすめ》もつ親《おや》の心《こころ》であろう。

    四

「若旦那《わかだんな》」
「何《な》んとの」
「何《な》んとの、じゃァござんせんぜ。あの期《ご》に及《およ》んで、垣根《かきね》へ首《くび》を突込《つっこ》むなんざ、情《なさけ》なすぎて、涙《なみだ》が出《で》るじゃァござんせんか」
「おやおや、これはけしからぬ。お前《まえ》が腰《こし》を押《お》したからこそ、あんな態《ざま》になったんじゃないか、それを松《まつ》つぁん、あたしにすりつけられたんじゃ、おたまり小法師《こぼし》がありゃァしないよ」
「あれだ、若旦那《わかだんな》。あっしゃァ後《うしろ》にいたんじゃねえんで。若旦那《わかだんな》と並《なら》んで、のぞいてたんじゃござんせんか。腰《こし》を押《お》すにも押《お》さないにも、まず、手《て》が届《とど》きゃァしませんや。――それにでえいち、あの声《
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