ょ、ちょいと待《ま》っとくんなさい、若旦那《わかだんな》。無理《むり》をおいいなすっちゃ困《こま》りやす」
「何《なに》が無理《むり》さ」
「何《なに》がと仰《おっ》しゃって、実《じつ》ァあっしゃァ、相手《あいて》の名前《なまえ》まじァ知《し》らねえんで。……」
「名前《なまえ》を知《し》らないッて」
「そうなんで。……」
「そんなら、名前《なまえ》はともかく、どんな男《おとこ》なんだか、それをいっとくれ。お武家《ぶけ》か、商人《あきんど》か、それとも職人《しょくにん》か。――」
「そいつがやっぱり判《わか》らねえんで。――」
「松つぁん」
徳太郎《とくたろう》の声《こえ》は甲走《かんばし》った。
「へえ」
「たいがいにしとくれ。あたしゃ酔狂《すいきょう》で、お前《まえ》さんをここへ通《とお》したんじゃないんだよ。おせんが隠《かく》れて逢《あ》っているという、相手《あいて》の男《おとこ》を知《し》りたいばっかりに、見世《みせ》の者《もの》の手前《てまえ》も構《かま》わず、わざわざ二|階《かい》へあげたんじゃないか。名《な》を知《し》らないのはまだしものこと、お武家《ぶけ》か商人《あき
前へ
次へ
全263ページ中135ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング