《うご》かなかった。
「ではおせんにゃ、ちゃんとした情人《いろ》があって、この節《せつ》じゃ毎日《まいにち》、そこへ通《かよ》い詰《づ》めだというんだね」
「まず、ざっとそんなことなんで。……」
「いったい、そのおせんの情人《いろ》というのは、何者《なにもの》なんだか、松《まっ》つぁん、はっきりあたしに教《おし》えておくれ」
「さァ、そいつァどうも。――」
「何《なに》をいってんだね。そこまで明《あ》かしておきながら、あとは幽霊《ゆうれい》の足《あし》にしちまうなんて、馬鹿《ばか》なことがあるもんかね。――お前《まえ》さんさっき、何《な》んといったい。若旦那《わかだんな》が鯱鉾立《しゃっちょこだち》して喜《よろこ》ぶ話《はなし》だと、見世《みせ》であんなに、大《おお》きなせりふ[#「せりふ」に傍点]でいったじゃないか。あたしゃ口惜《くや》しいけれど聞《き》いてるんだよ。どうせその気《き》で来《き》たんなら、あからさまに、一から十まで話《はなし》しておくれ。相手《あいて》の名《な》を聞《き》かないうちは、気の毒だが松《まっ》つぁん、ここは滅多《めった》に動《うご》かしゃァしないよ」
「ち
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