。手前《てまえ》にお渡《わた》し下《くだ》さいまし」
「おッとッとッと。父《とっ》つぁん、そいつァいけねえ。おいらが悪《わる》いようにしねえから、おめえはそっちに引《ひ》ッ込《こ》んでるがいい」
 松《まつ》五|郎《ろう》が親爺《おやじ》を制《せい》している隙《すき》に、徳太郎《とくたろう》の姿《すがた》は、いつか人込《ひとご》みの中《なか》へ消《き》えていた。

    七

「政吉《まさきち》、辰蔵《たつぞう》、亀《かめ》八、分太《ぶんた》、梅吉《うめきち》、幸兵衛《こうべえ》。――」
 殆《ほと》んどひといきに、二三|日前《にちまえ》に奉公《ほうこう》に来《き》た八|歳《さい》の政吉《まさきち》から、番頭《ばんとう》の幸兵衛《こうべえ》まで、やけ[#「やけ」に傍点]半分《はんぶん》に呼《よ》びながら、中《なか》の口《くち》からあたふたと駆《か》け込《こ》んで来《き》た徳太郎《とくたろう》は、髷《まげ》の刷毛先《はけさき》に届《とど》く、背中《せなか》一|杯《ぱい》の汚泥《はね》も忘《わす》れたように、廊下《ろうか》の暖簾口《のれんぐち》で地駄《じだ》ン駄《だ》踏《ふ》んで、おのが
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