、雨《あめ》は容赦《ようしゃ》なく降《ふ》りかかって、いつの間《ま》にか人《ひと》だかりのした辺《あたり》の有様《ありさま》に、徳太郎《とくたろう》は思《おも》わず亀《かめ》の子《こ》のように首《くび》をすくめた。
「もし、若旦那《わかだんな》」
円《まる》く取巻《とりま》いた中《なか》から、ひょっこり首《くび》だけ差《さ》し伸《の》べて、如何《いか》にも憚《はばか》った物腰《ものごし》の、手《て》を膝《ひざ》の下《した》までさげたのは、五十がらみのぼて[#「ぼて」に傍点]振《ふ》り魚屋《さかなや》だった。
徳太郎《とくたろう》は、偸《ぬす》むように顔《かお》を挙《あ》げた。
「手前《てまえ》でございます。市松《いちまつ》の親父《おやじ》でございます」
「えッ」
「通《とお》りがかりの御挨拶《ごあいさつ》で、何《な》んとも恐《おそ》れいりますが、どうやら、市松《いちまつ》の野郎《やろう》が、飛《と》んだ粗相《そそう》をいたしました様子《ようす》。早速《さっそく》連《つ》れて帰《かえ》りまして、性根《しょうね》の坐《すわ》るまで、責《せ》め折檻《せっかん》をいたします。どうかこのまま
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