。そりゃァこの雨《あめ》に、大抵《たいてい》じゃあるまい。お前《まえ》さんがわざわざ行《い》かないでも、ちょいと一|言《こと》聞《き》いてれば、いつでもうちの小僧《こぞう》に買《か》いにやってあげたものを」
「有難《ありがと》うはござんすが、親《おや》に服《の》ませるお薬《くすり》を人様《ひとさま》にお願《ねが》い申《もう》しましては、お稲荷様《いなりさま》の罰《ばち》が当《あた》ります」
「成《な》る程《ほど》、成《な》る程《ほど》、相変《あいかわ》らずの親孝行《おやこうこう》だの」
徳太郎《とくたろう》はそういって、ごくりと一つ固唾《かたず》を飲《の》んだ。
五
当代《とうだい》の人気役者《にんきやくしゃ》宗《そう》十|郎《ろう》に似《に》ていると、太鼓持《たいこもち》の誰《だれ》かに一|度《ど》いわれたのが、無上《むじょう》に機嫌《きげん》をよくしたものか、のほほんと納《おさ》まった色男振《いろおとこぶ》りは、見《み》る程《ほど》の者《もの》をして、ことごとく虫《むし》ずの走《はし》る思《おも》いをさせずにはおかないくらい、気障気《きざけ》たっぷりの若旦那《わかだ
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