《どろぼうねこ》かも知《し》れませんよ」
「そんならいいが、あたしゃまたおまえが転《ころ》びでもしたんじゃないかと思《おも》って、びっくりしたのさ。おまえあって、あたし、というより、勿体《もったい》ないが、おまえあってのお稲荷様《いなりさま》、滅多《めった》に怪我《けが》でもしてごらん、それこそ御参詣《おさんけい》が、半分《はんぶん》に減《へ》ってしまうだろうじゃないか。――縹緻《きりょう》がよくって孝行《こうこう》で、その上《うえ》愛想《あいそう》ならとりなしなら、どなたの眼《め》にも笠森《かさもり》一、お腹《なか》を痛《いた》めた娘《むすめ》を賞《ほ》める訳《わけ》じゃないが、あたしゃどんなに鼻《はな》が高《たか》いか。……」
「まァお母《かあ》さん。――」
「いいやね。恥《はず》かしいこたァありゃァしない。子《こ》を賞《ほ》める親《おや》は、世間《せけん》には腐《くさ》る程《ほど》あるけれど、どれもこれも、これ見《み》よがしの自慢《じまん》たらたら。それと違《ちが》ってあたしのは、おまえに聞《き》かせるお礼《れい》じゃないか。さ、ひとつついでに、背中《せなか》を流《なが》してあげ
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