のと同《おな》じに、絶《た》え間《ま》なく耳《みみ》を奪《うば》った。
への字《じ》に結《むす》んだ口《くち》に、煙管《きせる》を銜《くわ》えたまま、魅《み》せられたように人形《にんぎょう》を凝視《ぎょうし》し続《つづ》けている由斎《ゆうさい》は、何《なに》か大《おお》きく頷《うなず》くと、今《いま》し方《がた》坊主《ぼうず》がおこして来《き》た炭火《すみび》を、十|能《のう》から火鉢《ひばち》にかけて、独《ひと》りひそかに眉《まゆ》を寄《よ》せた。
「坊主《ぼうず》。おめえ、表《おもて》の声《こえ》が聞《きこ》えねえのか」
「誰《だれ》か来《き》ておりますか」
「来《き》てる。戸《と》を開《あ》けて見《み》ねえ」
「へえ」
「だが、こっちへ通《とお》しちゃならねえぜ」
半信半疑《はんしんはんぎ》で立《た》って行《い》った坊主《ぼうず》は、背《せ》をまるくして、雨戸《あまど》の隙間《すきま》から覗《のぞ》いた。
「おや、あたしでござんすよ」
「おお、おせんさん」
坊主《ぼうず》は、たてつけの悪《わる》い雨戸《あまど》を開《あ》けて、ぺこりと一つ頭《あたま》をさげた。そこには頭巾《
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