《あお》ぐ、団扇《うちわ》の音《おと》が聞《きこ》えていた。
その団扇《うちわ》の音《おと》を、じりじりと妙《みょう》にいら立《だ》つ耳《みみ》で聞《き》きながら、由斎《ゆうさい》は前《まえ》に立《た》てかけている、等身大《とうしんだい》に近《ちか》い女《おんな》の人形《にんぎょう》を、睨《にら》めるように眺《なが》めていたが、ふと何《なに》か思《おも》い出《だ》したのであろう。あたり憚《はばか》らぬ声《こえ》で勝手元《かってもと》へ向《むか》って叫《さけ》んだ。
「坊主《ぼうず》。坊主《ぼうず》」
「へえ」
「おめえ、今朝《けさ》面《つら》を洗《あら》ったか」
「へえ」
「嘘《うそ》をつけ。面《つら》を洗《あら》った奴《やつ》が、そんな粗相《そそう》をするはずァなかろう。ここへ来《き》て、よく人形《にんぎょう》の足《あし》を見《み》ねえ。甲《こう》に、こんなに蝋《ろう》が垂《た》れているじゃねえか」
恐《おそ》る恐《おそ》る仕事場《しごとば》へ戻《もど》った。坊主《ぼうず》の足《あし》はふるえていた。
「こいつァおめえの仕事《しごと》だな」
「知《し》りません」
「知《し》らねえ
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