》しで会《あ》わせようの、二人《ふたり》で話《はなし》をさせようのと、そんな訳合《わけあい》じァありゃしない。松江《しょうこう》は日頃《ひごろ》、おいらの絵《え》が大好《だいす》きとかで、板《いた》おろしをしたのはもとより、版下《はんした》までを集《あつ》めている程《ほど》の好《す》き者《しゃ》仲間《なかま》、それがゆうべ、芝居《しばい》の帰《かえ》りにひょっこり寄《よ》って、この次《つぎ》の狂言《きょうげん》には、是非《ぜひ》とも笠森《かさもり》おせんちゃんを、芝居《しばい》に仕組《しく》んで出《だ》したいとの、たっての望《のぞ》みさ。どういう筋《すじ》に仕組《しく》むのか、そいつは作者《さくしゃ》の重助《じゅうすけ》さんに謀《はか》ってからの寸法《すんぽう》だから、まだはっきりとはいえないとのことだった、松江《しょうこう》が写《うつ》したお前《まえ》の姿《すがた》を、舞台《ぶたい》で見《み》られるとなりゃ、何《な》んといっても面白《おもしろ》い話《はなし》。おいらは二つ返事《へんじ》で、手《て》を打《う》ってしまったんだ。――そこで、善《ぜん》は急《いそ》げのたとえをそのまま、あしたの朝《あさ》、ここへおせんに来《き》てもらおうから、太夫《たゆう》ももう一|度《ど》、ここまで出《で》て来《き》てもらいたいと、約束事《やくそくごと》が出来《でき》たんだが、――のうおせん。おいらの前《まえ》じゃ、肌《はだ》まで見《み》せて、絵《え》を写《うつ》させるお前《まえ》じゃないか、相手《あいて》が誰《だれ》であろうと、ここで一時《いっとき》、茶のみ話《ばなし》をするだけだ。心持《こころも》よく会《あ》ってやるがいいわな」
「さァ。――」
「今更《いまさら》思案《しあん》もないであろう。こうしているうちにも、もうそこらへ、やって来《き》たかも知《し》れまいて」
「まァ、師匠《ししょう》さん」
「はッはッは。お前《まえ》、めっきり気《き》が小《ちい》さくなったの」
「そんな訳《わけ》じゃござんせぬが、あたしゃ知《し》らない役者衆《やくしゃしゅう》とは。……」
「ほい、まだそんなことをいってるのか。なまじ知《し》ってる顔《かお》よりも、はじめて会《あ》って見《み》る方《ほう》に、はずむ話《はなし》があるものだ。――それにお前《まえ》、相手《あいて》は当時《とうじ》上上吉《じょうじ
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