《け》を、一|本《ぽん》一|本《ぽん》しゃぶったりするのを見《み》ちゃァいくらおいらが度胸《どきょう》を据《す》えたって。……」
「爪《つめ》を煮《に》るたァ、そいつァいってえ何《な》んのこったい」
「薬罐《やかん》に入《い》れて、女《おんな》の爪《つめ》を煮《に》るんだ」
「女《おんな》の爪《つめ》を煮《に》る。――」
「そうよ。おまけにこいつァ、ただの女《おんな》の爪《つめ》じゃァねえぜ。当時《とうじ》江戸《えど》で、一といって二と下《くだ》らねえといわれてる、笠森《かさもり》おせんの爪《つめ》なんだ」
「冗談《じょうだん》じゃねえ。おせんの爪《つめ》が、何《な》んで煮《に》る程《ほど》取《と》れるもんか、おめえも人《ひと》が好過《よす》ぎるぜ。春重《はるしげ》に欺《だま》されて、気味《きみ》が悪《わる》いの恐《おそ》ろしいのと、頭《あたま》を抱《かか》えて帰《かえ》ってくるなんざ、お笑《わら》い草《ぐさ》だ。おおかた絵《え》を描《か》く膠《にかわ》でも煮《に》ていたんだろう。そいつをおめえが間違《まちが》って。……」
「そ、そんなんじゃねえ。真正《しんしょう》間違《まちが》いのねえおせんの爪《つめ》を紅《べに》の糠袋《ぬかぶくろ》から小出《こだ》しに出《だ》して、薬罐《やかん》の中《なか》で煮《に》てるんだ。そいつも、ただ煮《に》てるんならまだしもだが、薬罐《やかん》の上《うえ》へ面《つら》を被《かぶ》せて、立昇《たちのぼ》る湯気《ゆげ》を、血相《けっそう》変《か》えて嗅《か》いでるじゃねえか。あれがおめえ、いい心持《こころもち》で見《み》ていられるか、いられねえか、まず考《かんが》えてくんねえ」
「そいつを嗅《か》いで、どうしようッてんだ」
「奴《やつ》にいわせると、あのたまらなく臭《くせ》え匂《におい》が本当《ほんとう》の女《おんな》の匂《におい》だというんだ。嘘《うそ》だと思《おも》ったら、論《ろん》より証拠《しょうこ》、春重《はるしげ》の家《うち》へ行《い》って見《み》ねえ。戸《と》を締《し》め切《き》って、今《いま》が嬉《うれ》しがりの真《ま》ッ最中《さいちゅう》だぜ」
が、八五|郎《ろう》は首《くび》を振《ふ》った。
「そいつァいけねえ。おれァ師匠《ししょう》の使《つか》いで、おせんのとこまで行《い》かにゃならねえんだ」
七
隈取《
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