、ふと、夏《なつ》の軒端《のきば》につり残《のこ》されていた風鈴《ふうりん》の音《おと》に、重《おも》い眼《め》を開《あ》けてあたりを見廻《みまわ》した。
 医者《いしゃ》の玄庵《げんあん》をはじめ、妻《つま》のおむら、座元《ざもと》の羽左衛門《うざえもん》、三五|郎《ろう》、彦《ひこ》三|郎《ろう》、その他《た》の人達《ひとたち》が、ぐるりと枕許《まくらもと》に車座《くるまざ》になって、何《なに》かひそひそと語《かた》り合《あ》っている声《こえ》が、遠《とお》い国《くに》の出来事《できごと》のように聞《きこ》えていた。
「おお、あなた。――」
 最初《さいしょ》におむらが、声《こえ》をかけた。が、菊之丞《きくのじょう》の心《こころ》には、声《こえ》の主《ぬし》が誰《だれ》であるのか、まだはっきり映《うつ》らなかったのであろう。きょろりと一|度《ど》見廻《みまわ》したきり、再《ふたた》び眼《め》を閉《と》じてしまった。
 玄庵《げんあん》は徐《しず》かに手《て》を振《ふ》った。
「どなたもお静《しず》かに。――」
「はい」
 急《きゅう》に水《みず》を打《う》ったような静《しず》けさに還《かえ》った部屋《へや》の中《なか》には、ただ香《こう》のかおりが、低《ひく》く這《は》っているばかりであった。
 玄庵《げんあん》は、夜着《よぎ》の下《した》へ手《て》を入《い》れて、かるく菊之丞《きくのじょう》の手首《てくび》を掴《つか》んだまま首《くび》をひねった。
「先生《せんせい》、如何《いかが》でございます」
「脈《みゃく》に力《ちから》が出《で》たようじゃが。……」
「それはまァ、うれしゅうござんす」
「だが御安心《ごあんしん》は御無用《ごむよう》じゃ。いつ何時《なんどき》変化《へんか》があるか判《わか》らぬからのう」
「はい」
「お見舞《みまい》の方々《かたがた》も、次《つぎ》の間《ま》にお引取《ひきと》りなすってはどうじゃの、御病人《ごびょうにん》は、出来《でき》るだけ安静《あんせい》に、休《やす》ませてあげるとよいと思《おも》うでの」
「はいはい」と羽左衛門《うざえもん》が大《おお》きくうなずいた。「如何《いか》にも御《ご》もっともでございます。――では、ここはおかみさんにお願《ねが》い申《もう》して、次《つぎ》へ下《さが》っていることにいたしましょう」
「それが
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