《ひ》いたんだが、そりゃおめえ、ここでおれが話《はなし》をしてるようなもんじゃァねえ、芝居中《しばいじゅう》がひっくり返《かえ》るような大騒《おおさわ》ぎだ。――そのうちに頭取《とうどり》が駆《か》け着《つ》ける、弟子達《でしたち》が集《あつ》まるで、倒《たお》れた太夫《たゆう》を、鷺娘《さぎむすめ》の衣装《いしょう》のまま楽屋《がくや》へかつぎ込《こ》んじまったが、まだおめえ、宗庵先生《そうあんせんせい》のお許《ゆる》しが出《で》ねえから、太夫《たゆう》は楽屋《がくや》に寝《ね》かしたまま、家《うち》へも帰《けえ》れねえんだ」
「よし、お花《はな》、おいらに羽織《はおり》を出《だ》してくんねえ」
伝吉《でんきち》は突然《とつぜん》こういって立上《たちあが》った。
二
「お前《まえ》さん、どこへ行《ゆ》くんだよ。真《ま》ッ昼間《ぴるま》ッからお見世《みせ》を空《あ》けて出《で》て行《い》ったんじゃ、お客様《きゃくさま》に申訳《もうしわけ》がないじゃないか。太夫《たゆう》さんとこへお見舞《みまい》に行《ゆ》くなら、日《ひ》が暮《く》れてからにしとくれよ。――ようッてば」
下剃《したぞり》一人《ひとり》をおいて出《で》られたのでは、家業《かぎょう》に障《さわ》ると思《おも》ったのであろう。一|張羅《ちょうら》の羽織《はおり》を、渋々《しぶしぶ》箪笥《たんす》から出《だ》して来《き》たお花《はな》は、亭主《ていしゅ》の伝吉《でんきち》の袖《そで》をおさえて、無理《むり》にも引止《ひきと》めようと顔《かお》を窺《のぞ》き込《こ》んだ。
が、伝吉《でんきち》は、いきなり吐《は》きだすようにけんのみ[#「けんのみ」に傍点]を食《く》わせた。
「馬鹿野郎《ばかやろう》。何《なに》をいってやがるんだ。亭主《ていしゅ》のすることに、女《おんな》なんぞが口《くち》を出《だ》すこたァねえから黙《だま》って引《ひ》ッ込《こ》んでろ。外《ほか》のことならともかく、太夫《たゆう》が急病《きゅうびょう》だッてのを、そのままにしといたんじゃ、世間《せけん》の奴等《やつら》になんていわれると思《おも》うんだ。仮名床《かなどこ》の伝吉《でんきち》の奴《やつ》ァ、ふだん浜村屋《はまむらや》が好《す》きだの蜂《はち》の頭《あたま》だのと、口幅《くちはば》ッてえことをいってやがるくせに、な
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