んてざまなんだ。手間《てま》が惜《お》しさに見舞《みまい》にも行《ゆ》かねえしみッたれ野郎《やろう》だ、とそれこそ口《くち》をそろえて悪《わる》くいわれるなァ、加賀様《かがさま》の門《もん》よりもよく判《わか》ってるぜ。――つまらねえ理屈《りくつ》ァいわねえで、速《はや》く羽織《はおり》を着《き》せねえかい。こうなったり一|刻《こく》だって、待《ま》てしばしはねえんだ」
お花《はな》の手《て》から羽織《はおり》を引《ひ》ッたくった伝吉《でんきち》は、背筋《せすじ》が二|寸《すん》も曲《ま》がったなりに引《ひ》ッかけると、もう一|度《ど》お花《はな》の手《て》を振《ふ》りもぎって、喧嘩犬《けんかいぬ》のように、夢中《むちゅう》で見世《みせ》を飛《と》び出《だ》した。
「待《ま》ちねえ、伝《でん》さん」
長兵衛《ちょうべえ》は背後《うしろ》から声《こえ》をかけた。
「何《な》んの用《よう》だ」
「用《よう》じゃァねえが、おかみさんもああいうンだから、晩《ばん》にしたらどうだ。どうせいま行《い》ったって、会《あ》えるもんでもねえンだから。――」
「ふん、おめえまで、余計《よけい》なことはおいてくんねえ。おいらの足《あし》でおいらが歩《ある》いてくんだ。どこへ行《い》こうが勝手《かって》じゃねえか」
「ほう、大《おお》まかに出《で》やァがったな。話《はなし》をしたなァおれなんだぜ。行《ゆ》くんなら、せめておれの髯《ひげ》だけでもあたッてッてくんねえ」
「髯《ひげ》は帰《けえ》って来《き》てからだ」
「帰《かえ》って来《き》てからじゃ、間《ま》に合《あ》わねえよ」
「間《ま》に合《あ》わなかったら、どこいでも行《い》って、やってもらって来《く》るがいいやな。――ええもう面倒臭《めんどうくせ》え、四の五のいってるうちに、日《ひ》が暮《く》れちまわァ」
前つぼの固《かた》い草履《ぞうり》の先《さき》で砂《すな》を蹴《け》って、一|目散《もくさん》に駆《か》け出《だ》した伝吉《でんきち》は、提灯屋《ちょうちんや》の角《かど》まで来《く》ると、ふと立停《たちどま》って小首《こくび》を傾《かし》げた。
「待《ま》てよ。こいつァ市村座《いちむらざ》へ行《ゆ》くより先《さき》に、もっと大事《だいじ》なところがあるぜ。――そうだ。まだおせんちゃんが知《し》らねえかもしれねえ。こんな時《
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