えのある老人が坐っている。いつも桂子の家に手伝いに来ているオバさんの年老《としと》った夫。私は、桂子に万一のことでもあったのかと、ギョッとして一度に目が覚めてしまう。幸い桂子の身体に異状はない、ただ泥棒に見舞われたという話なので私は安心する。私はこと財産に関しては、昔から本来無一物、何レノ処ニカ塵挨《じんあい》ヲ惹《ひ》カン、といった暢気《のんき》な気持なのだ。
それで落着いて、昨夜、二度も、近くの長兄の家を訪れて引返し、三度目、深更二時頃、警官の手を借り、長兄の家にたどりつき、その夜、長兄のもとに一泊し、こちらに回ったという、オジさんの話をきく。
オジさんの話では、私に、二度目に家をとび出された桂子は、その日、アドルムを買ってきて熟睡し、翌日の昼頃まで死んだように眠った後、フラフラ表に出、見知らぬ若い男と帰ってきた。そしてふたりで夕食を食べた後、桂子は勤めに出ると言い、その男とふたりで外に出た。間もなく、若い男がひとりだけで帰ってきて、友人と約束の時まで休ませて欲しいと、家に上りこんだ。
人のいいオバさんは、その男を信用し、男に勧められるまま、近くの自宅に御飯を食べにゆく。そし
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