からやかましく飲み代を制限されるのに困り、また妻子のもとに送る金のことでも煩《うるさ》く言われるのに閉口し、金を方々にかくしたことがある。いまは、その復讐《ふくしゅう》をされているのだと思えば、バカな私は少なくとも、このことに関して桂子を責める気になれない。
 しかし、彼女がその一月の間に三夜ほど外泊し、その度に、分厚い札たばを持ってきて、貯金したという話をきいて、私は愕然《がくぜん》とした。彼女は悪い病気を持っていて、それが私のとび出したあと、殆ど治療していないといっている。それならば、桂子はそうして自分で自分の身を亡ぼしているようなものではないか。私はあれを思い、これを思い、殆ど居たたまれぬ思いで、もう一度、桂子の家を出て、姉のもとにいった。
 そこには妻の勝ち誇ったような顔がある。妻は、私が桂子の家にいっている時、四人の子供を連れ、私たちの留守に、桂子の家を襲った。そして留守番のオバサンから、彼女が三度、外泊した話と、分厚い札たばを持返った話をきき、胸がスッとしたというのだ。その妻は、私の留守中、一張羅《いっちょうら》の着物を質に入れたという。世間の常識からいっても、誰にきかせて
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