しい世の中を作りたい希望をもって共産党に入っていった。
けれども一年ばかりで、私は現在の共産党に幻滅を感じた。それはボス中心の私利私欲を追求する連中だけに利用されているように思われたからである。それでも私は内部に踏みとどまって、戦うのが正しかったのだろう。だが私は一時の感情にかられて、党に脱党届を叩きつけた。そして党を憎むよりも自分を憎んだ。自分が裏切者、不義士の張本のように思われ、醜悪にみえて仕方なかったのである。
そして家に帰って、文学三昧《ぶんがくざんまい》に戻ってみたが、すでに終戦後の作家|飢饉《ききん》で、多くの流行作家が世に出た後では、私は、いわゆる、バスにのりおくれた形で、持込みの原稿もなかなか売れなかった。その私の悪戦苦闘に対しても、妻は一向、同情しなかった。ヤケになった私は将来、私に余裕ができたら、別に愛人を作ってもよいかと、妻に尋ねると、妻は冷然と、(ええ、お金さえ下さればお父さんなんか家にいなくてもいいわ)といった。
ところが、その幾らかの余裕のできるようになった頃、私は前のような事情で、桂子と知り合いになった。桂子は、前に同棲《どうせい》していた異国人のお
前へ
次へ
全42ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング