赤い屋根、白い家々。大学もそんなユウトピアの中にあります。
艇を借りるとき、世話を焼いてくれた、親切な南加大学の補欠漕手《サブそうしゅ》の上背も、六尺八寸はあり、驚《おどろ》かされたことでした。
練習コオスは流れる淀《よど》み、オォルがねばる、気持よさです。久し振《ぶ》りに、はりきった、清さんの号令で、艇は船台《ランディング》を離《はな》れ、下流に向いました。
と、突然《とつぜん》、漕《こ》ぎすぎようとする橋の上に、群れていた観衆が、なつかしい母国語で、「万歳《ばんざい》」を叫んでくれます。みれば、顔の黄色い、日本人ばかり。おおかた、聞き伝えて、近在から寄り集まった移民のお百姓達《ひゃくしょうたち》でありましょう。質素な服装《ふくそう》、日に焼けた顔、その熱狂ぶりも烈《はげ》しくて、彼等の朴訥《ぼくとつ》な歓迎には、心打たれるものがありました。
ぼくは、愈々《いよいよ》、あなたを忘れねば、と繰返《くりかえ》し、オォルに力を入れて、スライドを蹴《け》っていたときです。前のシイトの松山さんが、「止《や》めい、止めろ」と叫びざま、オォルを投げだすや、振返って、ぼくを睨《ね》めつけ、「
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