たが、知らん振りもできないので、近よると、「おい、さっき中村がお前のことを、ボンチと呼んでいたが、あれはお前の綽名か」とききます。「さアどうですか」と白ばっくれるのに、「どういう意味か、知ってるか」とニヤニヤ皆と目くばせしてから、尋《たず》ねます。関西弁で、坊《ぼっ》ちゃんという事じゃないですか、と正直に答えようと思いましたが、また反感を買ってもと思い、「知りません」と些《いささ》かくすぐつたい返事をすると、横から、東海さんが、大声で、「あれは関西で、白痴《はくち》のことを言うんだよ」と言えば、沢村さんも、「そうとも、ボンチはつまりポンチと同じことじゃ。阿呆《あほう》のことをいうんだぞ」と大笑い。と、森さんが、したり顔で、「ああ、それで解《わか》った。女の選手達が、大坂《ダイハン》のことをボンチとか、ボンボンとか呼んでいるのは、そういう意味か」と、言えば、松山さんも荒々《あらあら》しく、「大坂《ダイハン》よ、お前は惚《ほ》れている女から、いつも馬鹿と呼ばれているんだぞ」と罵り、そこで皆から、ひとしきり嘲笑の雨。
 ぼくは、しばしポカンとしていましたが、堪《た》え切れなくなると、「そうで
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