や》りなおしです。黒井さんが、「もう好い」と言うまで、ぼくは油汗《あぶらあせ》をだらだら流しづめでした。
 晩になって、B甲板《かんぱん》の捲揚台《ウインチ》のまわりに、皆が集まっているので、行ってみると、腕角力《うでずもう》の最中でした。初め、KOの八郎さんと、十九歳の美少年上原――彼はぼく同様新人ですが、商工部のときから漕いでいるし、ボオトも上手で、皆から愛されていました。――の二人がやって、八郎さんが負けると、「うん、上原はなかなか強い。俺《おれ》とやろう」と松山さんが節くれだった毛深い腕を出します。「いやア」と上原も顔負けしながら、やっていると、やはり、問題ではなく、松山さんが強い。
 松山さんは機嫌《きげん》よく、上原を賞《ほ》めていましたが、ぼくと視線が合うと、忽ち、不機嫌な顔付になって、「おい、大坂《ダイハン》、上原とやってみい。お前の方が一ツ歳上《としうえ》じゃないか」ときめつけます。ぼくは今朝以来、自信が、少しもないので、「いや、上原君のほうが強いですよ」とべそかき笑いをしますと、「ばか、貴様は、女の尻に喰《く》いつくだけが、得意なんだな」と罵《ののし》り、豪傑《ごう
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