し、サインをしてくれます。と傍《そば》から、「わたしも上げる」とか言いながら、パアスを探すお嬢さんがいます。二三枚、貰った写真は、何《いず》れもブロマイド式に凝《こ》ったものですが、正直|綺麗《きれい》なひとは、一人もいませんでした。
 その上、「あなた、メモ貸して、ミイのアドレス書く」と、だぼはぜ嬢が切り出し、また、続けて、二三人が、達者な英語で、御自分のアドレスを書いてくれました。
「あなた、向うのアドレス、着いたら、教えて」とだぼはぜお嬢さんが言うのを、うんうん肯《うなず》いている中、ぼくは、そのグルッペの隅《すみ》に、ひとりの可憐《かれん》な娘を見つけました。
 美しい顔ではありませんが、色の黒い、瘠《や》せた顔に、子供らしい瞳が、くるくるしていて可愛《かわい》らしい。先刻から、だぼはぜさんの蔭にかすんで、悄然《しょんぼり》しているのが、今朝からのあなたの姿に連想され、「テエプ、この裡《うち》の一人に抛ってね」とだぼはぜ嬢が自信ありげに念を押したとき、よしあの娘《こ》に抛ろうと、とっさに決めたのでした。
 出帆の銅鑼《どら》が鳴りだしたとき、ぼくは白いテエプを、その娘に投げてや
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