を置いた事です。馬鹿です。ぼくは相好《そうごう》崩して喜んだらしい。「チャアミングよ」というお嬢さんもいれば、「日本人で、こんなに大きい。スプレンディッド」という女《ひと》もいる。いよいよ、好い気持になって、ワアワアヘしあってくる娘さん達の、香油《こうゆ》と、汗《あせ》と白粉のムッとする体臭《たいしゅう》にむせていると、いきなり、また吃驚《びっくり》させられました。というのは、そのだぼはぜ嬢が、愈々《いよいよ》、瞳《ひとみ》に媚《こび》をたたえて、「けっして、助平とは思わないでね」とウインクをするのです。失礼! が、ぼくはふき出したい衝動《しょうどう》のあとで、泣き出したいような気になりました。だって、このお嬢さん達は、きっと祖国を知らないんだ。だから日本の礼儀《れいぎ》、日本の言葉もよく知らないのだろう。笑ってはいけない、と思いました。で、「ええ、思いませんとも」真面目に言いきりましたが、そういう口の端《は》から、へんに肉感的な微苦笑《びくしょう》が、唇を歪《ゆが》めるのを、押《おさ》えられませんでした。
 すると、そのだぼはぜ嬢はいきなり、ハンドバッグのなかから、自分の写真を取り出
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