取り囲まれていましたが、ぼくの姿をみるなり「ああ坂本君」と呼んで「この人もボオトの選手です。大きいでしょう」とか、紹介《しょうかい》しておいて、自分は歓迎に来ている県人会の人達のほうへ行ってしまいました。ぼくは周囲の女性達をみるなり、坂本さんが、ぼくに委《まか》して、立ち去ったのが、すぐ諒解《りょうかい》できました。美醜《びしゅう》はとわず、とにかく、その頃の言葉で、心臓の強いお嬢さん達でした。
いずれも二十歳前後の娘さんとみえますが、なかに一人、豊かに肥《こ》えた肩《かた》をむきだした洋装の、だぼ沙魚《はぜ》みたいなお嬢さんが、リイダア格で、「サインして下さいよう」とサイン帳をつきだすと、あとは我も我もと、キャアキャア手帳をつきつけます。「ぼくなんかサインしてもつまりませんよ」と、それでも押《お》しつけられるままに、ぼくが女持の万年筆を借りて、Xth Olympic, Japanese Rowing Team, No.4. S. Sakamoto と書きながら、驚いたのは、そのだぼはぜ嬢、「好《い》いのよ、好いのよ」と嬌声《きょうせい》を発し、「あなた、とても好いわ」とぼくの肩に手
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