りました。淋《さび》しい顔立が、人混《ひとご》みに揉《も》まれ、船が離《はな》れて行けば、いっそう頼《たよ》りなげに見える、そのぼんやりした瞳に、ぼくが、テエプを抛ろうとすると、その瞳は、急に濡《ぬ》れてみえるほど、生々と光りだした気がしました。この娘は、まだ十七で、帰りに寄航したときも逢いましたし、内地に子供らしい手紙を度々《たびたび》くれました。
 あとで、船室に集まった皆が、ハワイでの収穫《しゅうかく》を話しあったとき、坂本さんが、ニヤニヤ笑いながら、ぼくとだぼ沙魚嬢のロオマンスを素《す》ッ破抜《ぱぬ》きました。こんな巫山戯《ふざけ》た話になると、みんなとても機嫌《きげん》よく、森さんが、先《ま》ず、「ほう、大坂《ダイハン》は、最近、大当りだな」とひやかせば、松山さん、「色男は違《ちが》うな」と、大口開いて笑うし、虎さんは、「ドレドレ」とだぼはぜ嬢の写真をとって見ようとする。「俺《おれ》にも貸せ」と梶さんが手を伸《の》ばす。「待て、待て」と横から覗《のぞ》いていた沢村さんが怒る。あとは、ワアッと大笑いでした。
 あなたとの友情も、こんなに巫山戯半分で、皆と共々に笑える余裕《よゆう
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