けている最中、ひょっくり出て、瞳《ひとみ》をパチリと動かす。
 と、森さんが、「おい大坂《ダイハン》、止《よ》さんか」と真ッ赤になって怒りだした。しまった。ぼくは取返しのつかない思いにうつむく。と、「どうしたんだ」松山さんが、面白《おもしろ》がり、声を荒げて聞いた。森さんが「否《いや》、厭《いや》らしいッたら、ありゃしない。此奴《こいつ》ったら」と、ぼくのほうを顎《あご》でしゃくって、「ウインクの真似《まね》をしてやがるんだ。こんなにしてな」と、さも厭らしく三白眼《さんぱくがん》をむいてみせます。「ハハア、それがウインクてんだな。新式の――」と補欠《サブ》の佐藤が、憎《にく》らしく、お節介《せっかい》な口を出すと、皆がどッとふきだしました。
 その笑いのなかで、ぼくはもう死にたい、という気がする程《ほど》、弱虫でした。まだ、松山氏は、沢村さんに向って、「こんなにするんだとよ。気味が悪い」とやって見せています。こんなふうに、皆から扱《あつか》われるのには慣れていますが、あなたのことが、有るだけに、たまらなかったのです。
 結局さんざん嘲弄《ちょうろう》されてから、解放されましたが、それか
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