《くちばし》をだします。結局、それからぼくの査問会らしきものが、皆で開かれることになりました。
尤《もっと》も、あとで考えると、G博士のいった醜聞は、子供ッぽいぼく等の友情などは、問題としておらず、先夜、ある男女が、ボオト・デッキの蔭《かげ》で、抱擁《ほうよう》し合っていたのを、船員にみられたという噂からだったのを、すでに連中は知っていたかとも思われますが――。
皆はぞろぞろ二等のサロンに入りました。ぼくは、勢い、衆目の帰する処《ところ》です。出帆《しゅっぱん》前からの神経異常が、あなたとの愉《たの》しい交わりに、紛《まぎ》らわされてはいたが、こうした場合一度に出て来て、頭の芯《しん》は重だるく、気力もなくなり、なにをいわれても聞いてはいずに肯《うなず》くばかりでした。
ぼくは前から、左側の瞼《まぶた》だけが二重《ふたえ》で、右は一重瞼なのです。それを両方共、二重にする為《ため》には、眼を大きく上に瞠《みは》ってから、パチリとやれば、右も二重瞼になる。それを、あなたと逢《あ》う前には、よくやって、顔を綺麗《きれい》にしようと思ったものです。その癖《くせ》がちょうど、皆から査問を受
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