かし、この黄金の書に、ものを書く時間は短かく、これと殆ど同時に、ぼくには、大きな不幸が忍《しの》びよって来ていました。それは、まず第一に、ほかの人間達が、ぼく等の友情のなかに、影《かげ》を落して来だしたことです。次には、ぼく達が、他の人達に注目されるほど、仲良くなって行ったことです。
七
ある日、写真機を持出した村川が、ぼくを呼んで、あなたと内田さんの写真をとるから誘《さそ》うてきてくれ、と言います。ぼくが「いやだ」と断ると、「なんでい、熊本は、お前のいう事なら、きくよ」と笑います。
結局、あなた達の写真を貰《もら》える嬉《うれ》しさもあり、白地に、紫《むらさき》の菖蒲《しょうぶ》を散らした浴衣《ゆかた》をきたあなたと、紅《あか》いレザアコオトをきた内田さんを、ボオト・デッキの蔭《かげ》に、ひっぱり出し、村川が、写真を撮《と》り、また、ぼくと村川の写真を、内田さんが撮りました。
二三日|経《た》って、出来上がった写真を、交換《こうかん》し、サインもし合っていました。あなたの顔は、眼が円《まる》く、鼻がちんまりして、色が黒く、いかにも、漁師の娘《むすめ》さんといった風
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