くれるのが、ふだんクルウの先輩達が、ぼくをまるで、運動神経の零《ゼロ》なように、コオチャアに言いつけているのを知っているだけ、とても嬉しかったのです。
 勿論《もちろん》、あなた達のほうでも、ぼく達を負かしたときには、手を叩いて、嬉しがっていた。勝負の面白さが、純粋《じゅんすい》に勝負だけの面白さで、その時には、恋も、コオチャアも、女も、利害も、過去も未来もなかったのです。
 後年、ぼくは、或《あ》る女達と、もっと恋愛《れんあい》らしい肉体的な交際を結びました。しかし、それが、所謂《いわゆる》恋愛らしい、形を採ればとるほど、ぼくは恋愛を装《よそお》って、実は、損得を計算している自分に気づくのでした。
 おもうに、あのとき、燃える空と海に包まれ、そして、焼きつくような日光をあびた甲板に、勝っているときは嬉しく、負けたときは口惜《くや》しく、遊びの楽しさの他《ほか》には、なにもなかった。ぼくは、本当に、黄金の日々を過していたのでした。
 もう、あの日当りでのデッキ・ゴルフの愉しさは、書くのを止《や》めましょう。もっと、純粋な愉しさがあって、書けば書くほど、嘘《うそ》になる気がします。
 し
前へ 次へ
全188ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング