《じゅうじつ》した時間でした。
 飯を食うと、ぼくは直ぐAデッキに出て、コオチャア黒井さんが昼寝している横の、デッキ・チェアに腰《こし》を降し、瀝青《チャン》のように、たぎった海を見ています。暫《しばら》く経《た》ってから、黄色いブラウスに白いスカアトをはいた、あなたと、赤いベレエ帽に、紺の上衣《うわぎ》を着た内田さんとが、笑いながらやって来ます。内田さんは、ぼくに、「ぼんち、デッキ・ゴルフやろう」と言ってから、今度は黒井さんの手をひっぱって、無理に起します。黒井さんは、「ああァ」と大欠伸《おおあくび》をしてから、周囲をみまわし、「大坂《ダイハン》とか、よし、また、ひねってやろう」とゆっくり立ち上がるのでした。
 そこで、あなたと内田さんの組と、ぼくと黒井さんの組が対抗してゲエムを始めます。ぼくにとって、勝負なぞ、初めは、どうでも好いのですが、やはり良い当りをみせて、あなたの持ち輪を圏外《けんがい》の溝《みぞ》のなかに、叩き落したときなぞ、思わず快心の笑《え》みがうかぶ、得意さでした。
 ことに、ぼくをいつも庇護《ひご》してくれる黒井さんが、そういうとき、「うまい」と一言、褒《ほ》めて
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