る、すさまじさで、ブリッジの練習。体操の選手は選手で、贅肉《ぜいにく》のない浮彫《うきぼり》のような体を、平行棒に、海老《えび》上がりさせては、くるくる廻っています。おおかた上のプールでは、水泳選手の河童《かっぱ》連が、水沫《みずしぶき》をたてて、浮いたり沈《しず》んだり、ウォタアポロの、球を奪《うば》いあっているのでしょう。
 それでありながら、古代ギリシャ、ロオマの巨匠《きょしょう》達が発見した、人間の文字通り具体的な、観念に憑《つ》かれぬという意味での美しさが、百花|撩乱《りょうらん》と咲き乱れておりました。
 しかしながら、その中に育った、ぼく達の愛情は、肉体の露《あら》わにみえる処に、あればあるほど肉体的でない、まるで童話《メルヘン》の恋《こい》物語めいた、静かさでありました。あなたと語り合うことは、恐《おそ》ろしく、眼を見交《みかわ》すことが、楽しく、黙《もく》して身近くあるよりも、ただ訳もなく一緒《いっしょ》に遊んでいるほうが、嬉《うれ》しかったのです。
 夜の食事のときなど、メニュウが、手紙になったり、先の方に絵葉書がついていたりします。ぼくはその上に書く、あなたへの、
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