や》けした、豊かな頬《ほお》を滴《したた》り、黒いリボンで結んだ、髪の乱れが、頸《くび》すじに、汗に濡《ぬ》れ、纏《まつわ》りついているのを、無造作にかきあげる。
七番の坂本さんが、ぼくの肩《かた》を叩いて、「すごいなア」という。あなたの真剣さに、感動したのでしょう。「ええ」と領《うなず》きながら、ぼくはふいと目頭が熱くなったのに、自分で驚《おどろ》き、汗を拭《ぬぐ》うふりをすると、慌《あわ》てて船室に駆け降りました。
舷《ふなばた》では、槍《やり》の丹智さんが、大洋にむかって、紐《ひも》をつけた、槍を投げています。ブンと風をきり、五十|米《メエトル》も海にむかって、突き刺さって行く槍の穂先《ほさ》きが、波に墜《お》ちるとき、キラキラッと陽に眩《くる》めくのが、素晴《すばら》しい。と、上の甲板からは、ダイビングの女子選手が、胴のまわりを、吊鐶《つりわ》で押《おさ》えたまま、空中に、さッと飛びこむ。アクロバットなどより真面目《まじめ》な美しさです。
と、また、男達のほうでも、ボクサアは、喰《く》いつきそうな形相で、サンドバッグを叩いていますし、レスラアは、筋肉の塊《かたま》りにみえ
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