われているだけに、思わず、ハッとあがってしまい、又《また》、普段の地金が出るのではないかと固くなるのでした。
ある日、バック台を引いたあとで、腕組みをしながら、あとの人達のやるのを見ていて、ひょいと眼をあげると、あなたの汗《あせ》ばんだ顔が、体育室の円窓越しに、此方《こちら》を眺《なが》めていました。ぼくは直《す》ぐ、恥《はず》かしくなって、視線をそらせようとすると、あなたも、寂《さび》しいくらい白い歯をみせ、笑うと、窓|硝子《ガラス》をトントン拳《こぶし》で叩《たた》く真似《まね》をしてから、身をひるがえし逃げてゆきました。
それからと云《い》うものは、ぼくは、バック台をひきながらも、背後の体育室のなかで、かすかに、モーターの廻り出す音でも、聞えると、あなたが来ているかなと、胸が昂《たか》まるのでした。
いつでしたか、いちばん後まで残り、バック台を蔵《しま》ってからも、皆、降りて行ってしまうまで海を眺めるふりをし、誰もいなくなってから、体育室に入ってみました。
すると、あなたと、内田さんが、木馬に乗って、ギッコンギッコンと凄《すさ》まじい速さで、上がったり下がったりしています
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