は胸を膨《ふく》らませ、あなたを見つめました。
その夜のあなたは、また、薄紫《うすむらさき》の浴衣《ゆかた》に、黄色い三尺帯を締《し》め、髪を左右に編んでお下げにしていました。化粧《けしょう》をしていない、小麦色の肌《はだ》が、ぼくにしっとりとした、落着きを与《あた》えてくれます。顔つき合せては、恥かしく、というより、何も彼にもが、しろがね色に光り輝く、この雰囲気《ふんいき》のなかでは、喋《しゃべ》るよりも黙《だま》って、あなたと、海をみているほうが、愉《たの》しかった。
随分《ずいぶん》、長い間、沈黙《ちんもく》が続いた後で、ぽつんとぼくが、「熊本さんも、高知ですか」と訊《たず》ねました。あなたは頷《うなず》いてから、「坂本さんは、高知の、どこでしたの」と言います。「いや、高知は両親の生れた所ですけれど、まだ知りません。ずっと東京です」「そう。高知は良い国よ。水が綺麗《きれい》だし、人が親切で」「ええ、聴《き》いています。母がよく、話してくれます。ほら、よさこい節ってあるんでしょう」「ええ、こんなんですわ」とあなたは、悪戯《いたずら》ッ児《こ》のように、くるくる動く黒眼勝《くろめ
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