しました。その花やいだ笑いに、つりこまれるように、ぼくは、その部屋が男子禁制のレディスルウムであるのも忘れ、ふらふらと入り込《こ》んでしまいました。あなた達は、怪訝《けげん》な顔をして、ぼくを見ています。ぼくも入ったきり、なんとも出来ぬ、羞恥《しゅうち》にかられ、立ちすくんでしまった。
すると、あなた達はそそくさ、部屋を出て行きました。ぼくも、その後から、急いで逃《に》げだしたのです。
翌晩、船で、簡単な晩餐会《ばんさんかい》があって、その席上、選手全員の自己紹介が行われました。なにしろ元気一杯な連中ばかりですから、溌剌とした挨拶《あいさつ》が、食堂中に響《ひび》き渡《わた》ります。槍《やり》の丹智《タンチ》さんが女にしては、堂々たる声で、「槍の丹智で御座《ござ》います」とお辞儀《じぎ》をすると、TAをCHIと聴《き》き違《ちが》え易《やす》いものですから、男達は、どっと笑い出しました。ぼくには、大きな体の丹智さんが、呆気《あっけ》にとられ、坐《すわ》りもならず、立っているのが、その時には、ほんとうにお気の毒でした。いつもなら、無邪気《むじゃき》に笑えたでしょう。が、あなたの上に、
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