処《ところ》を、探してみました。すると、あなたの顔ではありますが、全然、さっきの魅力を失った、ただの田舎女学生の、薄汚《うすぎたな》く取り澄ました、肖像《しょうぞう》が発見されました。そこに (熊本秋子、二十歳、K県出身、N体専に在学中種目ハイ・ジャムプ記録一|米《メエトル》五七)と出ているのを、何度も読みかえしました。なかでも、高知県出身とある偶然さが、嬉《うれ》しかった。ぼくも高知県――といっても、本籍《ほんせき》があるだけで、行ったことはなかったのですが、それでも、この次、お逢いしたときの、話のきっかけが出来たと、ぼくには嬉しかった。
五
翌朝から、ぼくは、あなたを、先輩達に言わせれば、まるで犬の様につけまわし出しました。船の頂辺のボオト・デッキから、船底のCデッキまで、ぼくは閑《ひま》さえあると、くるくる廻り歩き、あなたの姿を追って、一目遠くからでも見れば、満足だったのです。
その晩、B甲板の船室の蔭《かげ》で、あなたが手摺《てすり》に凭《もた》れかかって、海を見ているところを、みつけました。腕《うで》をくんで背中をまるめている、あなたの緑色のスエタアのうえに
前へ
次へ
全188ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング