ろい》のかわりに、健康がぷんぷん匂《にお》う清潔さで、あなたはぼくを惹《ひ》きつけた。あなたの言葉は田舎《いなか》の女学生丸出しだし、髪《かみ》はまるで、老嬢《ろうじょう》のような、ひっつめでしたが、それさえ、なにか微笑《ほほえ》ましい魅力でした。
 あなたは、薄紫《うすむらさき》の浴衣《ゆかた》に、黄色い三尺をふッさりと結んでいた。そして、「ボオトはきれいねエ」と言いながら、袖《そで》をひるがえして漕《こ》ぐ真似《まね》をした。ぼくは別れるとき、「お名前は」とか、「なにをやって居られるんですか」とか、訊《き》きました。そしたら、あなたは、「うち、いややわ」と急に、袂《たもと》で、顔をかくし、笑い声をたてて、バタバタ駆けて行ってしまった。お友達のなかでいちばん背の高いあなたが、子供のように跳《は》ねてゆくところを、ぼくは、拍子抜《ひょうしぬ》けしたように、ぽかんと眺めていたのです。その癖《くせ》、心のなかには、潮《うしお》のように、温かいなにかが、ふツふツと沸《わ》き、荒《あ》れ狂《くる》ってくるのでした。
 船室に帰ってから、ぼくは大急ぎで、選手|名簿《めいぼ》を引き出し、女子選手の
前へ 次へ
全188ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング