した。漕《こ》いでいれば、あんなに辛《つら》いものでも、見ていれば綺麗《きれい》に違いありません。
映画が済んでから、またAデッキに出てみますと、太平洋は、けぶるような朧月夜《おぼろづきよ》でした。霧《きり》がすこしたれこめ、うねりもゆるやかな海面を、眺《なが》めながら、Bデッキヘの降り口にまで来たときです。甲板の反対側から、廻《まわ》ってきた、あなた達と、ぱったり一緒になってしまいました。雀《すずめ》のように喋《しゃべ》りあっているあなた達に、村川は、「どうぞお先に」とふざけて、言いました。女子ハアドルの内田さんが、先に進みでて、「おおきに」と澄《す》ましたお辞儀《じぎ》をしたので、あなた達は笑い崩《くず》れる。
そのとき、全く偶然《ぐうぜん》で、すぐ前にいたあなたに、ぼくが「活動みていたんですか」ときいた。あなたは驚《おどろ》いたように顔をあげて、ぼくをみた、真面目《まじめ》になった、あなたの顔が、月光に、青白く輝いていた。それは、童女の貌《かお》と、成熟した女の貌との混淆《こんこう》による奇妙《きみょう》な魅力《みりょく》でした。
みじんも化粧《けしょう》もせず、白粉《おし
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