のです。
 モオラン(Morning−run)と称する、朝の駆足《かけあし》をやって帰ってくると、森さんが、合宿|傍《わき》の六地蔵の通りで背広を着て、俯《うつむ》いたまま、何かを探していました。
 駆けているぼく達――といっても、舵《かじ》の清さんに、七番の坂本さん、二番の虎《とら》さん、それに、ぼくといった真面目《まじめ》な四五人だけでしたが――をみると、森さんは、真っ先に、ぼくをよんで、「オイ、大坂《ダイハン》、いっしょに探してくれ」と頼《たの》むのです。ぼくの姓は坂本ですが、七番の坂本さんと間違《まちが》え易《やす》いので、いつも身体《からだ》の大きいぼくは、侮蔑《ぶべつ》的な意味も含《ふく》めて、大坂《ダイハン》と呼ばれていました。
 そのとき、バッジを悪所に落した事情をきくと、日頃いじめられているだけに、皆《みんな》が笑うと一緒《いっしょ》に、噴《ふ》き出したくなるのを、我慢《がまん》できなかったほど、好《い》い気味だ、とおもいましたが、それから、暫《しばら》くして、ぼくは、森さんより、もっとひどい失敗をやってしまったのです。
 出発の前々夜、合宿引上げの酒宴《しゅえん》が
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