の人に取られたのを、下宿人のHさんが話して、母に渡してくれました。少しヒステリイ気味のある母は、テエプを握《にぎ》り、しゃくり上げるように泣いていました。あまり泣くのをみている内、なにか、ホッとする気持になり、左右を見廻《みまわ》すと、大抵《たいてい》の選手達が、誰《だれ》でも一人は、若い女のひとに来て貰《もら》っている、花やかさに見えました。
ぼく達のクルウでも、豪傑《ごうけつ》風な五番の松山さん迄が、見知り越しのシャ・ノアルの女給とテエプを交《かわ》しています。殊《こと》に美男《ハンサム》な、六番の東海さんなんかは、テエプというテエプが綺麗《きれい》な女に握られていました。肉親と男友達の情愛に、見送られているぼくは幸福には違《ちが》いありません。が、母には勿体《もったい》ないが、娘《むすめ》さんがひとり交《まじ》っていて、欲《ほ》しかった。
その淋《さび》しい気持は出帆《しゅっぱん》してからも続きました。見送りの人達の影《かげ》も波止場も霞《かす》み、港も燈台も隔《へだ》たって、歓送船も帰ったあと、花束や、テエプの散らかった甲板《かんぱん》にひとり、島と、鴎《かもめ》と、波のう
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