み入れると、悚然《しょうぜん》、頭から水を掛けられたようなショックを受け、絨毯《じゅうたん》のうえに身が釘付《くぎづ》けになりました。あなたが、衆人|環視《かんし》のなかで泣いていたのです。
 あとで聞くと、あなたは、その夜映画説明をしたB選手に醜聞《スキャンダル》の件で、面罵《めんば》されたのだといいます。ぼくが傍《そば》に居合せたら恐《おそ》らく、身体の震《ふる》える憤《いきどお》りに気が狂《くる》いそうだったことでしょう。
 このとき、一足なかに踏み込み、その光景をみるなり、ぼくは居竦《いすく》んでしまいました。紺《こん》のベレエ帽《ぼう》に紺のブレザァコオトを着た内田さんが、看護婦のように、あなたに寄り添《そ》って慰めていました。室内にいた二十人ばかりの男女の視線が一斉《いっせい》に、立竦んでいるぼくに注がれた気がして居たたまれず、すぐ表に出てしまいました。
 あなたが災難にあっているのに、何にもしてやれない自分がはがゆく、ぐるぐるデッキを廻《まわ》り歩きました。黒い海だった。走る波でした。
 二三回、プロムナアド・デッキを歩いて、先程の広間の前まで来ると、そこの手摺に凭れてあ
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