、舷側《げんそく》の手摺に凭《もた》れて、みんなの頭越しに、この傷だらけのフィルムを、ぼんやり眺《なが》めていました。
義理人情に絡《から》まれた男、沓掛時次郎の物語はへんてこに悲しいものでした。それに、説明を買ってでたレスラアB氏の説明が出鱈目《でたらめ》で、たとえば※[#二重かっこ開く]助《すけ》ッ人《と》※[#二重かっこ閉じ]と読むべきところを※[#二重かっこ開く]助人《じょにん》※[#二重かっこ閉じ]と読みあげるような誤《あやま》りが、ぼくには奇妙な哀愁《あいしゅう》となって、引きこまれるのでした。飾《かざ》りのない束《たば》ね髪《がみ》に、白い上衣《うわぎ》を着たあなたが項垂《うなだ》れたまま、映画をまるで見ていないようなのも悲しかった。
映画が済んで、みんな立ってしまったあと、ぼくは独り、舷縁《ふなべり》に腰《こし》を掛《か》け、柱に手をまいて暗い海をみていた。青白いスクリインは、バタバタと風に煽《あお》られ、そのまえに乱雑に転がったデッキ・チェア、みんな、虚《むな》しい風景でした。
もう、なんにも、あなたに言いたくなくなって、ぼんやり、一等船室の大広間に足を踏《ふ》
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