台《しんだい》にどっかと胡坐《あぐら》をかき、これも丸坊主の村川と、しきりに大声で笑いあって、なにか嬉《うれ》しそうに話をしていました。
 入って行ったぼくをみると、彼は顔をあげて意外らしく、「オウ」と挨拶《あいさつ》します。ぼくが改まって、「金沢君、お願いがあるんだけれど」と切り出すと、「え、なんだい」彼はおおげさに眉《まゆ》を顰《ひそ》めました。ぼくは下劣《げれつ》に流布《るふ》されているぼく達の交友が、ここでもストイックの彼に、誤解《ごかい》されてはと「実は変にとられたら困るけれど」と前置きすれば、「いや別に変に思わないよ」ともう冷たい声で突《つ》っぱなされました。
 ぼくは懸命《けんめい》になればなる程《ほど》、拙劣《せつれつ》なのを知りながら「実はあなたが昨夜、熊本さんについて見たことを、あなたの胸だけに蔵《しま》っておいて貰《もら》いたいのです」と言いかければ、彼は不愉快《ふゆかい》そうにかん高く、ぼくを遮《さえぎ》り「なにも俺《おれ》はそんなことを喋《しゃべ》り歩いたりはしないよ。言ってみたって何の得にもならないし、第一、俺は熊本みたいな女に少しも興味がないもの」と、そこ
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