ウムで、これも丸坊主になりたての頭で、煙草《たばこ》を吹《ふ》かしていました。「ちょっと」と呼びだし、照れ臭《くさ》いのを我慢《がまん》して、あなたの一件を尋《たず》ねますと、KOボオイの標準型で立派な青年紳士の趣《おもむき》のある彼はかるく笑い、
「そりゃア柴山の話が大きいんだ。そこ迄《まで》ぼく達はみなかった。ただ暗い処を二人でごそごそしていたし、出てきたとき熊本が泣いていて、それをネルチンスキイが慰《なぐさ》めていた様子が変だったから、金沢がみんなに話したんでしょう。しかし、ぼくには、なにも他人のことだし、誰《だれ》にも言いふらしたりしませんよ。安心なさい」
 とニヤニヤ笑いながら、ぼくの肩を叩きます。マドロス・パイプを乙《おつ》に銜《くわ》え、落着いて煙《けむり》をくゆらす彼の態度にはなにか信用できるものがあって、ぼくはくれぐれもその噂《うわさ》を打消すように頼むと、こんどは、階段を飛ぶように降りて、金沢の船室を叩いてみました。
 折よく在室とみえ「お入り」と重々しい声です。ドアを開けると、元来禁欲|僧《そう》じみた風貌《ふうぼう》の彼にはよく似合う刈《か》りたての頭をして、寝
前へ 次へ
全188ページ中163ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング