いるとも知らずネルチンスキイが、熊本にながいこと接吻《せっぷん》してけつかったそうだ。汚《きた》ない」
ネルチンスキイというのは一船|遅《おく》れて日本に遠征《えんせい》に来る筈《はず》の芬蘭《フィンランド》の陸上選手|監督《かんとく》で、一足先きに事務上の連絡旁々《れんらくかたがた》この船に乗った、中年の好紳士《こうしんし》です。背が高く口髭《くちひげ》を蓄《たくわ》え、膏《あぶら》ぎった赭顔《あからがお》をしていました。
ぼくは頭のなかが熱くなり、嘘《うそ》だ嘘だとおもいながらも柴山の言葉を否定するなんの根拠《こんきょ》もないままに、無性《むしょう》に腹が立ってきました。柴山は続けます。
「それで、金沢が帰ってきて陸上の連中に話したから、みんな怒《おこ》っていたよ。二三人で呼びだして、熊本を撲《なぐ》ろうかとまで言っているんだぜ」
ぼくはこれは大変だ、と思いました。とにかく河堀と金沢に会ってから真相を確かめ、その上であなたに逢《あ》ってお話をするのだ、と心に決め、柴山の親切に、厚く礼をいってからその場を立ち去りました。
先《ま》ず、河堀を捜《さが》しに行くとスモオキング・ル
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