びしく結ばれて、此方《こっち》に洋杖《ステッキ》の音もコツコツとやって来られたのです。ぼくは、びっくり敗亡、飛ぶようにして自分の船室に逃げ帰りましたが、内田さんの小首を傾《かし》げた横坐りの姿は、可愛《かわい》い猫《ねこ》のような魅力《みりょく》と媚態《びたい》に溢《あふ》れていて、ながく心に残りました。
 しかし、それから間もなく、KOのボオトの連中が坊主《ぼうず》になるような事件を惹《ひ》き起したとき、ぼくは、なにか危なかったと胸をなでる気持がありました。
 事件といっても、大したことではなく、村川から聞いた処《ところ》によると、皆《みんな》が酔《よ》っぱらってブリッジにいると、中村さんを始め女のひと達が二三人あがって来た。それをこちらが不良学生みたいに取囲んで、酔った勢いで、ワアワア言っていると、中村さんが、真っ先に泣きだし、それを折悪《おりあ》しく来かかったTコオチャアに見つけられ、みんなはその場で叱責《しっせき》されたばかりでなく、Tさんは主将の八郎さんに告げたので、八郎さんがまたみんなを呼びつけて烈火《れっか》のように怒《いか》り、自分から先に髪を刈って坊主になったので、皆
前へ 次へ
全188ページ中160ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング