》をとがらせ「面皰《ピムプルズ》!」と吐きつけると、バタバタ駆《か》け去って行ってしまった。あとでぼくは、練習を止《や》めてから、めっきり増えた面皰づらを撫《な》で、苦く佗《わび》しい想いでした。
翌日、歌をかいたノオトを返したくM嬢をさがしていると、また甲板で中村さんに出会い、M嬢は船室に内田さんと二人でいるとのことなので、早く渡してあげたく、かつて一度も行ったことのない、女の船室のほうへ行き、名札のかかったドアを軽く叩《たた》くと、中から内田さんの声がものうげに「どうぞ」という。開けたとたんに、ぼくは吃驚《びっくり》しました。内田さんがたった一人で、それもシュミイズ一枚で、横坐《よこずわ》りになり、髪《かみ》を梳《す》いていたのです。白粉《おしろい》と香水《こうすい》の匂《にお》いにむっとみちた部屋でした。
内田さんは入って来たのがぼくなのをみると、一寸《ちょっと》坐り直し「坂本さんだったの」とみあげます。ぼくは内田さんの女《セックス》に圧倒《あっとう》されて居たたまれない気持で、早々にノオトを渡し、扉《とびら》を開けて出るのと殆《ほとん》ど同時でした。会長のK博士が温顔をき
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