まれました。船室に持って帰って、前の頁《ペエジ》を繰《く》ってみますと、――乙女《おとめ》の君の夢よ、安かれ。――とか、高く強く速く頑張れ《アルティアスアスフォルティアスモルティアズ》[#「高く強く速く頑張れ」にルビ]中村嬢――とか、様々な文句が書いてあるなかに、Y女子監督が――鯨吠《くじらほ》ゆ太平洋に金波照り行方《ゆくえ》知れぬ月の旅かな――とかいう様な歌を書いているので、ぼくも臆面《おくめん》なく――かにかくにオリムピックの想《おも》い出《で》となりにし人と土地のことかな、――と書きなぐり、中村嬢に渡《わた》しておきました。
すると、二三日|経《た》って、甲板《かんぱん》で逢った内田さんがぼくに、「坂本さん、お願いがあるんやけれど」と珍《めずら》しく改まった調子です。「ハア」とぼくが堅《かた》くなると、今度は笑いだして、うしろに居た百|米《メエトル》のM嬢をふりかえり、「ねエ坂本さんの歌うまかったわねエ」「否《いや》、駄目《だめ》ですよ」と照れるぼくを黙殺《もくさつ》して、「ねエMさんがあなたに歌をかいて下さいって。幾《いく》つでも出来るだけ」Mさんというひとはピチピチとした弾
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