ずっと前、日本に帰って死んだお祖母《ばあ》さんが夢に出てきて、妾《わたし》の手を曳《ひ》いてくれ、「これから坂本さんのお宅に行くんだよ」と言います。「嬉しいなア」と妾は喜んで、冷たくてカサカサするお祖母さんの手に縋《すが》り、どんどん暗い狭《せま》い路《みち》を歩いて行きますと、まだ見たこともない日本の町は、燈火《とうか》が少なくて、たいへん淋《さび》しくありました。
少し前方に、大きな灯のついた家がひとつあってお祖母さんは指をさし、「あれが坂本さんのホオムだよ」と申されました。
ところが、お家の前に広い深い河がありまして、お祖母さんは妾の腕を抜《ぬ》けそうに引張り、ジャブジャブ渡って行きましたが、妾の着物はびしょぬれで、皺《しわ》くちゃになりました。すると、お祖母さんは、たいへん怖《こわ》い顔になって、「坂本さんのお宅は、お行儀が煩《うる》さいから、ちゃんとしたなりで、お前が行かないと、花嫁《はなよめ》さんにはなれないよ」と怒ったので、妾はいつ迄もいつ迄も泣いていました※[#二重かっこ閉じ]
それからなんと書いてあったか忘れましたが、要するに、お兄さんみたいな気がするとか、い
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