交ってあなたの姿もみえたとき、ぼくは心が定らないまま逃《に》げだしたい衝動《しょうどう》にかられました。しかし女のひとが好きで且《か》つおっちょこちょいのぼくは、あなた達から好意を持たれているのを意識しているだけ、なにか気の利《き》いた文句を一言聞かせたく、その為《ため》だけでも浮々《うきうき》と皆《みんな》を迎《むか》えるのでした。みんなはお喋《しゃべ》りな小鳥のようにペちゃくちゃ囀《さえず》りながら、附近《ふきん》のデッキ・チェアに群がりましたが、ぼくの顔をみるや、急に内田さんから始まって、ひそひそ話になり、一度にぱっと飛びたって、一瞬《いっしゅん》の間に全部いなくなってしまいました。あとにあなたともう一人、円盤《えんばん》の石見嬢が残っていましたが、石見さんもみんなの俄《にわ》かに席から立ち去って了《しま》ったのに驚《おどろ》くと、きょろきょろ辺《あた》りを見廻《みまわ》して、初めてあなたとぼくに気づくと、こちらが照れてしまうほど真《ま》ッ赧《か》になり、大きな身体《からだ》をもじもじさせ、スカアトの襞《ひだ》を直したりして体裁《ていさい》を繕《つくろ》ってから、大急ぎで駆《か》
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