手をかけ、踊って行ってしまいました。
急に悄気《しょげ》てしまったぼくが片隅でひとりダンスを拝見していると、いつの間にかぼくの横に、油もつけていないバサバサの長髪《ちょうはつ》を無造作に掻《か》きあげた、血色の悪い小男の青年がやって来て立っていました。袴《はかま》もつけず薄汚《うすよご》れた紺絣《こんがすり》の着流しで、貧乏臭《びんぼうくさ》い懐《ふとこ》ろ手をし、ぼんやりダンスをみているけれど、選手ではないし、招待側の邦人のひとりかとおもい、「今晩は、どうも――」と挨拶《あいさつ》をすると「いやいや」と周章《あわて》て、ぼくの顔をみて哀《かな》しい薄笑いをして、「ぼくは単なる見物人ですよ」と言いました。
畳《たた》みかけて、「米国はもうながいんですか」ときけば、「いやまだ上陸して一週間位ですよ」「なにか勉強に」と続けると、「いえいえ遊んでいるんです。日本は煩さくって」「こちらに御親類でも」と尚《なお》煩さくいうと、「いやなにもありません。行き当り飛蝗《ばった》とともに草枕《くさまくら》」と最前の浪花節の句をいってから笑いました。ではさっきから何処《どこ》にもぐっていたのかと不審《
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